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二次的著作物-小説『推定無罪』の場合

二次的著作物とは、たとえば、Scott Tutowの小説『Presumed Innocent (推定無罪)』の場合、文芸春秋社の翻訳(上田公子訳)と映画館で上映された映画と、そのビデオ・テープが二次的著作物になります。これらの二次的著作物も著作権法により保護されます。映画や翻訳に限らず編曲、変形(例,絵画を彫刻にした場合その逆、写真を絵画にする等)、脚色(例、原作をNHK大河ドラマのために脚色した場合)、その他翻案することにより新たな創作性が加わったものであれば該当します(著2-1-11)。ここで一つ問題があります。ある小説を映画化するには脚色して脚本化する必要がありますが、その脚本が原作の二次的著作物なのは分かりますが、その脚本に基づいて作られた映画はどちらの二次的著作物なのでしょうか。三次的著作物というのはあるのでしょうか。正解は、脚本も映画も原作の二次的著作物です。二次的という言葉が誤解を招いています。英語では”derivative works”ですから、訳せば「派生的著作物」となります。「派生的」で理解すべきです。

二次的著作物は原著作物とは別の著作物として保護されます。原著作者は、二次的著作物の利用権を専有します(著28) 。著作権法第2条3項によれば、ビデオ・テープ、ビデオ・カセット等のビデオ・ソフトは映画の著作物です。ややこしいのが映画の著作権です。映画は、制作者、演出家,監督、撮影者、美術担当者、俳優、作曲家等多数の人間の共同作品です。これらにすべて著作権を認めると利用には著作権全員の許諾を要するため利用ができなくなるおそれがあります。そこで著作権法第16条は映画の全体的形成に創作的に寄与した者を著作者として、同29条1項で映画製作者に著作権者の地位を認めています。これは、著作者は、原始的には著作権者であるという原則の例外になります。本来なら、著作者であれば当然著作権と著作者人格権とがある筈ですですが、映画では著作者人格権はあっても金儲けができる著作財産権はありません。しかも人格権の方も氏名表示権と同一性保持権はありますが、公表権はありません。(著18-2)。この一見不合理な扱いも映画の円滑な利用のためといわれています。
【注】制作者と製作者とは異なります。映画の製作者は映画会社であり,映画の制作者は,いわゆる“プロデューサー”で著作権法上では映画形成に寄与した一人に過ぎず、上記したように著作権(著作財産権)は認められていない。

【英語一言アドバイス】「二次的著作物」とあるからと、"secondary works"としないこと。直訳の弊害です。本文でも言及したようにこの日本語自体が不明確です。中山信弘著「著作権法」の第1章第6節「二次的著作物」の箇所で、著者の中山教授は「二次的という用語よりも、英語訳として用いられている派生的(derivative)という用語の方が的確と思われるが、ここでは二次的著作物という法律上の用語に従う」と書いておられる。和文英訳に当たっては、日本語自体を疑ってかかる必要があります。書かれている日本語が完璧という例はほとんどありません。日本人の英語がpoorだと批判されますが、責任の大半は原文の書き手にあるように思います。現場で言うと喧嘩になるのであまり言いませんが。
                                  (弁理士 木村進一)
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by skimura21kyoto | 2008-11-26 19:19  

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