学術研究者が特許出願するに当っての留意事項と恩典について
2007年 10月 31日
1.特許出願は必要か
大学等(大学、高等専門学校及び大学共同利用機関)における研究の結果生まれた発明を企業等において有効活用することが、大学等の社会貢献として求められている。そのためには製品化する必要があるが、製品化にはそれなりの実用化のための研究が必要となる。実用化の段階で企業との接触が起こり、そのとき盗用等のややこしい問題が発生する。企業の方も無防備な発明に投資する愚はおかさない。ここに特許をとる、少なくとも出願しておく必要が起ってくる。出願さえ済んでおれば企業も安心して協力し、ライセンスの話にも応じてくる。企業の最大関心事は損得、それ以外にはない。
2. 出願に際して留意すべき事項 (関連条項:特30条、同第35条)
(1)発明者の決定 - 研究者が複数の場合が問題。発明者とは、当該発明の創作活動に現実に加担した者で特許を受ける権利は共有となる(原則、均等)。単なる補助者、資金提供者、後援者、委託者などは発明者ではない。また、学会発表のハンドアウト(配布物)に発明者と指導教官名とが連名になっていた場合、同教官は、自分は単なる補助者である旨の宣誓書を添えて特許法第30条の適用を受ける。
(2)発明者漏れがないようにする。出願後の発明者の追加は面倒な手続が要る(ただし、最近はかなり緩和された)。特に、発明者が出願の時点で退職や海外留学でいない場合に注意が要る。亡くなっていても発明者も氏名表示権をもっている。また、遺族への報奨金の問題も付随する。
(3)発明者の認定と職務発明の成否は別。企業からの出向者や学生も当該発明の発明者となり得るが、雇用関係はないから職務発明ではない。また、企業からの出向社員は派遣企業の職務発明になる可能性があり、出願に際しては企業が絡み、ややこしい問題が起こる可能性がある。
(4)出願前の公表に注意 - 出願完了までは発明は一切公表しない(インターネットも含む)。たとえ友人間でも他言しない慎重さが必要。研究者間の自由な意見交換は望ましいことであるが、そこでの公表は発明の新規性・進歩性を失わせるし、完全な盗用ではなく、ヒントを得て自己の考えを入れて先に出願するおそれがある。盗用か否かの判断は難しいが、少なくとも同一である限り出願も先の公表によって新規性または進歩性はなく特許の可能性はない。(特29条1~2項) 完全な盗用であれば先願権はない。(特39条6項)
(5)もし、意見交換したり、論文を発表するときは、発表の内容に関し参加者に守秘義務を課する。発明内容を特定し、参加者の氏名、日時、場所を明記した書面に署名又は捺印をしてもらう。発明内容の特定には要約書のようなものを添付してもよい(割り印するのが望ましい)。
(6)守秘義務があるにもかかわらず漏洩があった場合は、公表の日から6ヶ月以内に出願すれば新規性・進歩性は失っていないとみなされる(特30条2項)。
(7)大学が特許庁長官の指定(申請の必要あり)を受けている場合はその大学が開催する(主催、共催含む。後援は不可)研究集会において文書をもって発表した場合は、発表の日から6ヶ月以内に出願すれば新規性等は喪失しなかったものとみなされる。しかし、学部、学科単位で自主的に行われる博士(修士、学士)論文の発表会は、上記研修集会には該当しないので注意が肝要。
(8)上記の特典を受けるには特許法第30条4項の「証明書」を提出する必要がある。「証明書」は原則として大学の代表者(学長、総長、校長)が作成する。例外として代表者から権限を委譲された学部長でもよいが、権限委譲の証明書が必要となる。
(9)研究者が大学の出願に同意しないまま出願が完了した場合 - 職務発明規程(又は個別契約)上の職務発明については大学が特許を受ける権利を自動的に承継しているので問題はない。規程(又は契約)上権利を承継することになっていなかったり、それが自由発明であったりすると大学の出願は冒認出願と認定される。
(10)学生が発明をおこなった場合 - 学生は第35条規定の「従業者等」には該当しないので職務発明にはならない。大学が特許を受ける権利を承継するためには特別の契約が必要となる。契約なく大学が特許出願すればそれは冒認出願となり、拒絶理由となる。
(11) 職務上なされた発明の特許を受ける権利は大学に帰属する旨の職務発明規程があるにも拘わらず研究者が単独で出願してしまった場合 - 規程違反となるので大学は出願人の名義を大学に変更することを求めることができる。研究者が応じない場合は、裁判に訴えて確認判決書を得てそれを添えて特許庁に単独で出願人名義変更の手続きをとることができる。(この場合、学内での処分も考えられる。)
(弁理士 木村進一)
by skimura21kyoto | 2007-10-31 18:16