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論理的思考をめぐる英語表現(2)- 判例法の考え方

【はじめに】ここで紹介する事件は、“明視の法理”の適用がテーマになった事件である。“明視の法理”とは、米国の判例法上の法理で、警察官は正当な権限に基づいて、捜査現場において明視できる範囲にある証拠物件は令状なしで押収や差押さえができるとするもの。家庭に捜査に立ち入った警察官がたまたま目についた怪しいと思う物件、たとえば、ナイフや銃を自分の判断で差押さえたときなどに問題になる。

Issue: The issue is whether police seizure of a presumably stolen television set can be justified under the “plain view doctrine”.

【訳】 争点: 盗まれたと推定されるテレビセットを警察が差し押さえたことが、“明視の法理”にかなっているかどうか。

Rule: The court has held that such seizure can be justified if an officer has knowledge that the goods are stolen. In State v. Keefe, the court found that the seizure of a typewriter that came into plain view during the proper search of Keef’s residence was unjustified. Although the officers suspected that the defendant was part of a forgery ring that made use of a typewriter, they did not have immediate knowledge that the typewriter was evidence of the crime. The court found that the typewriter was merely an item of “possible evidentiary value” and, as such, could not be the subject of further search or seizure.

【訳】 規範: 裁判所は、警察官が当該物件が盗品であることを知っておればその差押さえは合法、と判示している。それはState v. Keefe事件において、Keefの家宅捜査の際に警察官が目に付いたタイプライターを押収したが、その行為は違法と裁判所は認定した。警察官が、被告人がタイプライターを常時使っている(make use of) ことをもって文書偽造団の一味であると疑ったとしても、それをもって直ちにそのタイプライターが犯罪(偽造)の証拠と認識してしまうことはできない。裁判所は、そのタイプライターは一応の証拠価値のある物件ではあるが、といって、進んで捜査または押収の対象となるものではない、と認定した。

【注】 原英文は"made use of a typewriter"としている。"was using a typewriter"でもいいように思うが、しかし単なる現在形では「その時使用しつつあった」だけの意味になるのに対し、make use of ~は「なにか仕事をするために使う(achieve a job)」の意味がでる。本件の場合ならforgeryを実行するために使う、の意味がでる。訳では「常時使っている」とした。偽造団であるから一回限りの使用ではない筈である。こういう言葉の選択は権利範囲の広狭に影響するので要注意である。我々の英語レベルでは、「使っているタイプライター」とくれば、100% "using"で済ましてしまうだろうと思う。微妙な言葉のニューアンスが法廷では意外に大きい意味をもってくるから恐ろしい。

Application of Rule to Facts:Similarly, the television set in our case is, at best, of only “possible” evidentiary value. Since the officers did not know that the set had been stolen, the warrantless seizure of the set cannot be justified by relying on the plain view doctrine.

【訳】 規範の事実への適用: Keefe事件同様に、本件テレビセットは、せいぜい“一応”の証拠価値がある程度である。警察官がそのテレビセットが盗品であることを知らなかった以上、令状なく押収したことは、“明視の法理”に従った合法的な行為とはいえない、と判示した。

【用語説明】 seizure: 押収、没収 forgery=文書や通貨の偽造 ring=徒党、一味
warrantless seizure=令状なしの押収(差押さえ)

【解 説】 テレビセットを押収した警察官の行為が適法か否かについて裁判所は、過去の事例であるState v. Keefeの“明視の法理”の観点から本件を裁いている。三段論法の大前提としてState v. Keefeの法理があり、小前提として警察官によるテレビセット押収の事実があり、結論は判決となっている。

英語については本稿(1)(2)を通じて用語や表現がご参考になることを願っている。狙いは、簡潔な英語である。そのためには意味の重複を避けることである。一つの意味領域を確保したら次に進むということである。その点は英語も日本語も変わらない。

                                           (弁理士 木村進一)
                                                         

by skimura21kyoto | 2007-11-03 13:07  

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