米国判例から学ぶ(続)-発明の特徴の強調はマイナスの可能性あり(その他)
2008年 03月 29日
CAFC 06-1-54 (decided July 26, 2006)
Wireless Agents LLC. vs. Sony Ericsson Mobile Communication AB and
Sony Ericsson Mobile Communications (USA), INC.,
この「米国判例から学ぶ(続)」は、3月11日に掲載した「米国判例から学ぶ」の続編です。
1. 事案の概要
2005年2月10日Wireless Agents LLC (原告[控訴人])は、Sony Ericsson(被告[被控訴人])が販売する携帯電話が、特許第6,665,173号(以下、’173特許)を侵害するとして差止めを求めて本訴を第1審裁判所に提起し、追って同年4月28日予備的差止めを請求しました。争点は、クレーム1中の“alphanumeric keyboard(英数字キーボード)”の文理解釈にあります。
2.第1審裁判所の意見
第1審は、原告の主張するalphanumeric keyboardの意味は採用しませんでした。その結果、原告(特許権者)が求めた予備的差止請求を否認しました。裁判所は、alphanumeric keyboardを、クワーティ、フィタリまたはドボラック配列その他のアルファニューメリック(英数文字の混合体)なレイアウトによるフルセットのキーをもった入力装置を意味すると解釈した上で、被告製品は言葉の適正な意味でのalphanumeric keyboardは有していない、と結論したのです。原告は控訴しました。
3.連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の判断
本件控訴の争点は、alphanumeric keyboardの語義にある。控訴審は、先例 (Free Motion Fitness, Inc.v.Cybex Int’l, Inc.) に従って、第1審のクレーム解釈に依拠することなく独自にalphanumeric keyboardを解釈し、次のように判示しました。
“このalphanumeric keyboardの意味の外延は、クレームの字面(the face of the claim)からは明確ではない。この言葉を定義した辞書はないが、明細書の一部である以上明細書を参照して読む必要がある(Phillips, 415 F.3d at 1315)。明細書は、争点となった語義を解く唯一・最上の鍵となるものである。本件で、第1審を含め我々に明らかになったことは、ここでいうalphanumeric keyboardは、フルセットのアルファベット及び数字キーのクワーティ、フィタリまたはドボラック配列その他の配列をもった入力装置であり、数字12個からなるキーパッドは含まないということである”。
“先ず、明細書中のSummaryには、本発明のキーボードは、ありふれたクワーティのような配列をもつが、この配列に限定される必要はなく、フィタリまたはドボラック配列、またはその他のフルセットの文字・数字キーを含む文字・数字配列であればよい、と述べている。”(5欄、6-11)
“発明の詳細な説明では、本願発明を、ありふれたクワーティ配列またはその他のフルセットの文字・数字キーを含む文字・数字配列をもつものとして説明しており、そこにはそれが好ましい実施態様(preferred embodiment)という付言はなく、Summaryの内容と変わらない。もし、原告の主張するようにフルセットに満たないキーボードも含むことを認めるとすれば、公衆は欺かれることになる(injure the public right) (Honeywell Int’l, Inc. v. ITT Indus, Inc.)。”
“原告は、明細書の最後のboilerplate文句(定型句のこと)で『この発明は実施例に限定されるものではなく・・・以下略』と書いている以上、明細書の字面だけでalphanumeric keyboardを定義づけるのは適切ではない旨反論するが、本明細書に対する我々の読みと矛盾するような意味がこの定型句にあるとは思えない。”
“第2に、明細書ではイ号物件のような携帯電話の数字12個からなるキーパッドの欠点を明確に指摘している(2欄Ⅱ39-59行)。さらに、alphanumeric keyboardを有した本件発明が、数字12個からなるキーパッドより使い易く、速く、覚え易いという長所を述べることで、携帯電話で常用されているキーパッドとの違いを述べている(5欄4-6行)”。
“当法廷では、かねてから明細書が特定の特徴(a particular feature)を含まないことを明らかにしている場合には、たとえクレームの文言上はその特徴(feature)を含むように読めても、それは請求の範囲に含まれないものとみなしてきた(Scimed Life Sys., Inc. v. Advanced Cardiovascular Sys., Inc.)。”
“原告は、alphanumeric keyboardは規則正しく配列したキーのこと」と述べた鑑定書などの外部証拠(extrinsic evidence)も考慮すべきだ、と主張する。しかし、当法廷は、同鑑定書は証拠の裏づけがない推論に過ぎず、我々のクレーム解釈には採用できない。”
“以上により第1審のクレーム解釈に異論はなく、原告請求の予備的差止めは容認できない。”
【この判例が教えるもの】
特許出願人は、権利をとる過程では拒絶理由として示された先行技術文献に対し発明の範囲を狭く言って(現に補正でクレームの範囲を縮小して)その先行技術を回避しようとしますが、一旦権利が取れてしまうとそんなことは忘れて発明の範囲外まで権利範囲を拡張しようとする癖があります。そのときの根拠となるのがクレームの文言です。特許明細書での語義は通常の辞書の意味が根拠になるのではなく、発明の詳細な説明で説明された意味が大事です。極端な例では、「四角形」は「円形」も含むということもありえます。辞書にこうある(外部証拠)という主張は採用されません。本件での裁判所もその姿勢です。
語義をめぐるこの種の事件は米国には非常に沢山あります。追々ご紹介します。
【注】この記事は日本弁理士会発行の「JPAA」平成18年12月号において国際活動センターからの米国情報として木村の名前で掲載したものを本ブログ用に改めたものです。
(弁理士 木村進一)
「特許評論」は登録商標(第4556242号)です。
Wireless Agents LLC. vs. Sony Ericsson Mobile Communication AB and
Sony Ericsson Mobile Communications (USA), INC.,
この「米国判例から学ぶ(続)」は、3月11日に掲載した「米国判例から学ぶ」の続編です。
1. 事案の概要
2005年2月10日Wireless Agents LLC (原告[控訴人])は、Sony Ericsson(被告[被控訴人])が販売する携帯電話が、特許第6,665,173号(以下、’173特許)を侵害するとして差止めを求めて本訴を第1審裁判所に提起し、追って同年4月28日予備的差止めを請求しました。争点は、クレーム1中の“alphanumeric keyboard(英数字キーボード)”の文理解釈にあります。
2.第1審裁判所の意見
第1審は、原告の主張するalphanumeric keyboardの意味は採用しませんでした。その結果、原告(特許権者)が求めた予備的差止請求を否認しました。裁判所は、alphanumeric keyboardを、クワーティ、フィタリまたはドボラック配列その他のアルファニューメリック(英数文字の混合体)なレイアウトによるフルセットのキーをもった入力装置を意味すると解釈した上で、被告製品は言葉の適正な意味でのalphanumeric keyboardは有していない、と結論したのです。原告は控訴しました。
3.連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の判断
本件控訴の争点は、alphanumeric keyboardの語義にある。控訴審は、先例 (Free Motion Fitness, Inc.v.Cybex Int’l, Inc.) に従って、第1審のクレーム解釈に依拠することなく独自にalphanumeric keyboardを解釈し、次のように判示しました。
“このalphanumeric keyboardの意味の外延は、クレームの字面(the face of the claim)からは明確ではない。この言葉を定義した辞書はないが、明細書の一部である以上明細書を参照して読む必要がある(Phillips, 415 F.3d at 1315)。明細書は、争点となった語義を解く唯一・最上の鍵となるものである。本件で、第1審を含め我々に明らかになったことは、ここでいうalphanumeric keyboardは、フルセットのアルファベット及び数字キーのクワーティ、フィタリまたはドボラック配列その他の配列をもった入力装置であり、数字12個からなるキーパッドは含まないということである”。
“先ず、明細書中のSummaryには、本発明のキーボードは、ありふれたクワーティのような配列をもつが、この配列に限定される必要はなく、フィタリまたはドボラック配列、またはその他のフルセットの文字・数字キーを含む文字・数字配列であればよい、と述べている。”(5欄、6-11)
“発明の詳細な説明では、本願発明を、ありふれたクワーティ配列またはその他のフルセットの文字・数字キーを含む文字・数字配列をもつものとして説明しており、そこにはそれが好ましい実施態様(preferred embodiment)という付言はなく、Summaryの内容と変わらない。もし、原告の主張するようにフルセットに満たないキーボードも含むことを認めるとすれば、公衆は欺かれることになる(injure the public right) (Honeywell Int’l, Inc. v. ITT Indus, Inc.)。”
“原告は、明細書の最後のboilerplate文句(定型句のこと)で『この発明は実施例に限定されるものではなく・・・以下略』と書いている以上、明細書の字面だけでalphanumeric keyboardを定義づけるのは適切ではない旨反論するが、本明細書に対する我々の読みと矛盾するような意味がこの定型句にあるとは思えない。”
“第2に、明細書ではイ号物件のような携帯電話の数字12個からなるキーパッドの欠点を明確に指摘している(2欄Ⅱ39-59行)。さらに、alphanumeric keyboardを有した本件発明が、数字12個からなるキーパッドより使い易く、速く、覚え易いという長所を述べることで、携帯電話で常用されているキーパッドとの違いを述べている(5欄4-6行)”。
“当法廷では、かねてから明細書が特定の特徴(a particular feature)を含まないことを明らかにしている場合には、たとえクレームの文言上はその特徴(feature)を含むように読めても、それは請求の範囲に含まれないものとみなしてきた(Scimed Life Sys., Inc. v. Advanced Cardiovascular Sys., Inc.)。”
“原告は、alphanumeric keyboardは規則正しく配列したキーのこと」と述べた鑑定書などの外部証拠(extrinsic evidence)も考慮すべきだ、と主張する。しかし、当法廷は、同鑑定書は証拠の裏づけがない推論に過ぎず、我々のクレーム解釈には採用できない。”
“以上により第1審のクレーム解釈に異論はなく、原告請求の予備的差止めは容認できない。”
【この判例が教えるもの】
特許出願人は、権利をとる過程では拒絶理由として示された先行技術文献に対し発明の範囲を狭く言って(現に補正でクレームの範囲を縮小して)その先行技術を回避しようとしますが、一旦権利が取れてしまうとそんなことは忘れて発明の範囲外まで権利範囲を拡張しようとする癖があります。そのときの根拠となるのがクレームの文言です。特許明細書での語義は通常の辞書の意味が根拠になるのではなく、発明の詳細な説明で説明された意味が大事です。極端な例では、「四角形」は「円形」も含むということもありえます。辞書にこうある(外部証拠)という主張は採用されません。本件での裁判所もその姿勢です。
語義をめぐるこの種の事件は米国には非常に沢山あります。追々ご紹介します。
【注】この記事は日本弁理士会発行の「JPAA」平成18年12月号において国際活動センターからの米国情報として木村の名前で掲載したものを本ブログ用に改めたものです。
(弁理士 木村進一)
「特許評論」は登録商標(第4556242号)です。
by skimura21kyoto | 2008-03-29 11:42
