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英語の基礎は読解力-いかに読解力を磨くか

今日は硬い知的財産権の話でなく、軟らかい野球の話にします。しかし狙いは表題のように英語読解力の向上です。なんでも読む、という心掛けが大切です。

“野球はやっぱりMLB(American Major League Baseball)”
野球の英文記事としては、野茂やイチロー選手に関するものが数種手元にある。その中から会話や英作に使えそうなところを二・三ご紹介します。

1.「TIME」の記事より-野茂投手の日本脱出は日本野球衰退の前兆
MLBが日本人により身近になったのは野茂投手のお陰です。彼は1995年2月1億円の年俸を捨てて26才でメジャーに挑戦し、その年の第66回オールスターでナショナル・リーグの先発投手をつとめ6人中5人を凡退させましたが、内3人は三振でした。米国では野茂旋風と騒ぎ立て、「TIME」1995年7月24日号は、そのカバーストリーで野茂投手を特集して、その中で野茂の日本脱出の経緯を次のように書いています。

Trying to rouse himself from the lethargy of life with the Kintetsu Buffaloes of the Pacific League, 26-year-old Hideo Nomo turned his back on the Japanese game and delivered on a promise to himself and to the Los Angels Dodgers..
(26才の野茂英雄は、近鉄バッファローズの惰眠から目を覚まして日本の野球に背を向け、自分自身の夢の実現とロサンジェルス・ドジャーズへの約束を果たしたのである)

【注】lethargy はdullと同義。野茂問題の発端は、野茂のトルネード投法とコンディションニングのやり方に球団、特に鈴木啓示監督からクレームがつき、チーム優先・勝ち優先の日本の野球から選手重視のメジャーに憧れて日本を去ったのが真相です。鈴木監督は独特の野球哲学をもっていましたが、その鈴木監督の哲学について同誌は次のように書いています。

Suzuki’s philosophy might be loosely described as “Throw until you die.” Nomo believes in the training methods of veteran pitcher Nolan Ryan, who advocates reducing stress on the arm. Ryan retired at 45. Nomo complained of shoulder problems, but Suzuki accused him of malingering: “We don’t need a guy like this.”
(鈴木の哲学は、ざっと言うと『死ぬまで投げろ!』であった。野茂はノーラン・ライアン投手のトレーニング方法を信奉していた。それは腕への負担をできるだけ減らすことであった。現にライアン投手は、45才まで現役を続けたのである。野茂が肩の不調を訴えたとき、鈴木監督は、それを仮病だと非難し、『そんな選手はうちにはいらない』と言った)

野茂が遭遇したトラブルはイチロー選手にも起こった。当時のオリックスの土井監督(巨人出身)がイチローのフォームや服装のスタイルにまで文句を言ったことが二人の確執の原因と言われています。しかし、根本的には野球とベースボールの違いにあるのではないかと思いますが、遠因はもっと根深いところ、すなわち、個を尊重し生かす寛容さのない日本人や、画一主義を盲目的に重んじる日本社会そのものにあると思っています。

2.「The Economist」の記事-ベースボールと野球の違い
野茂現象は、お硬い英国の経済誌「The Economist」が取り上げています。同誌1996年9月28日号で、野茂の日本脱出は、日本プロ野球の試合が画一的(formulaic)でつまらなくなって(dull)きているからだと述べています。

At root, there seems to be a generational revulsion against the way the game is taught and played in Japan. To Americans, baseball is all about enjoyment and sudden surprises; of spectacular hits, dexterous fielding and cheeky running between the bases. Not so in Japan.
(根本的には、日本のゲームの指導や試合方法に世代的な嫌悪感があるように思われる。 アメリカ人にとってベースボールは、絵になるクリーンヒット、超人的ともいえる見事な野手の守備、巧妙な盗塁からくる楽しみと、意外性以外にない。しかし、日本の野球にはそれがない。)

 When introduced in the late 19th century, baseball was widely interpreted by the former samurai elite to be a kind of spiritual training-discipline for shaping young minds and bodies. To the Japanese, yakyu (field ball) is seen to this day as a martial art to be practiced remorselessly to perfection and then grimly executed with the sole purpose of crushing the opposition.
(19世紀後半にベースボールが日本に輸入されると、元上級武士達はベースボールを若者の心身を鍛える一種の精神的訓練の道具として広く受け入れた。したがって、日本人にとって“野球”とは、今日にいたるまで、完璧を目指して情け容赦なく鍛え、ひたすら相手を倒すことのみを目的とした武術なのである。)

The Economistはこういう一文で結んでいます。

A lot of baseball games are won in Japan on runs that are “forced in” by a walk, rather than “batted in” by a crowd-pleasing hit to the fence or into the stands. Such a style of play would have American fans heading for the exits and the sponsors putting their wallets away.
(日本での勝ちゲームの多くは、観客を狂喜させるオーバーフェンスのホームランというよりは、“待球主義”により押し出しで稼いだ得点によるものである。こういうスタイルの野球ではアメリカの野球ファンならそそくさと出口に向かい、スポンサーは財布の紐を閉じてしまうにちがいない)

Despite the best efforts of stubborn individualists like Mr. Nomo and Mr. Suzuki, that is what is happening in Japanese baseball today. Coaching habits die hard, but until an unless baseball in Japan is made less defensive, less predictable and less uniform, more and more talented individualists are going to be heading for American shores. And, sadly, the game in Japan will be all the poorer.
(頑固なまでの個性主義者である野茂やイチローの最善の努力にもかかわらず、上記したスタイルの野球は今も日本では主流である。日本式の指導方法は現在も改められていない。もっと攻撃的で、意外性が強く、非画一的な試合に改善されない限り有望な個性的選手のアメリカ流出は止まないであろう。同時に、悲しいことに日本における試合は益々貧弱なものになっていくであろう)

3.PastimeかTime-Killerか
1996年の記事ですからイチロー選手はまだオリックスに在籍していましたが、現実はエコノミスト誌の予言通りになっています。野球自体も記事にあるように年々貧しくなってきています。阪神タイガースに限らず、今の日本のプロ野球は人気こそあっても、野球愛好者には本当につまらないものになってきています。高校出の投手やバッターが即通用するレベルですから。

メジャーリーグ放送の前に画面に”The National Pastime Highest Stage of the World is MLB.”というタイトルが一瞬だが流れます。MLBは、米国国民にとっては国民的娯楽(pastime)として浸透しているようです。日本ではどうでしょうか。私は日本のプロ野球は、国民的娯楽というより、個人ベースの“暇潰し”、すなわち、killing time (Time-killer) だと思っています。MLBで通用しない外国人選手を高給で雇わないと優勝が狙えないレベルですから。Pastimeの対象は、娯楽は娯楽でももっと質は高く、内容は充実している筈です。せめて相撲が真のnational pastimeであって欲しいと思うのですが。
                                       (弁理士 木村進一)
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by skimura21kyoto | 2007-12-12 16:33  

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