事件から学ぶ法律英語-O.J.シンプソン事件

検察は何故控訴しなかったのか。
1994年に米国で衝撃的な事件が起こりました。アメリカン・フットボールの英雄O.J.シンプソンが元妻とその友人を殺害したという事件です。彼は映画俳優としても知られていました。あの事件から米国の刑事裁判について一つ大きなことを学んだことがあります。ご紹介しましょう。

裁判は陪審裁判(jury court)で、検察(the prosecution)負け、被告人(the defendant)シンプソンの勝ちで終りましたが、意外だったのは、検察は控訴しなかったということです。検察に無罪判決をひっくり返すだけの有力な証拠がなかたから、という声も聞かれました。逆に、シンプソンに有罪の評決(verdict)がでていたら彼は控訴できたのか、という疑問も起こりました。しかし、被告人が控訴できるのは憲法も保障する当然の権利でしょう。しかし、検察側にも上訴権(the right to appeal)はある筈と思うのですが、何故控訴しなかったのでしょうか。なにか、裏工作(behind-the-scene negotiations)でもあったのか、と訝ることもできました。

もし日本なら、検察側は早速控訴したに違いありません。その結果、一審の判決が覆り、シンプソンは一転して死刑(death penalty)または無期懲役(life imprisonment)を宣告されたかもしれません。そうなればシンプソンは最高裁に上告する(appeal)でしょう。かくて、事件は20年、30年の長丁場の様相を呈することになったかもしれません。何故、検察は控訴しなかったのか。実はできないのです。その法的根拠は、米国連邦憲法が保障する「二重の危険条項(Double Jeopardy Clause)」にあります。

二重の危険条項
これは、米国憲法第5修正の規定です。州にも適用があります。「何人も同一の犯罪について重ねて刑事責任を問われない」と規定しています。特徴は、判決が確定する前でも「同一」犯罪について重ねて手続きを開始することはできません。これにより、検事は上訴しなかったのです。その点で一事不再理(non bis in idem)とは異なります。non bis in idemとは、"not twice for the same"の意味です。

Amendment Ⅴ
“No person shall be held to answer for a capital, or otherwise infamous crime,...(中略)...nor shall any person be subject for the same offense to be twice put in jeopardy of life or limb...(以下略)

この二重の危険条項をめぐる判例では、Green v. United States(1957) があります。これによると、被告人は一旦無罪免訴になれば、今後再度の起訴によって有罪になるかもしれないという世間の白い目から解放されることを米国憲法は保障している、と説明されています。したがって、再び、シンプソン氏を“ああは言っても実際はやっぱりやったのではないか”などと疑ってもいけないのです。

では、こんな場合はどうでしょうか。電気椅子が故障して死刑執行が延期になった場合、死刑囚は二重の危険条項により二度目の執行を免れることはできるか、というものです。連邦最高裁判所は5対4の僅差で、この場合の二度目の執行は憲法違反(unconstitutional)ではない、と判示しています。(Louisiana ex rel. Francis v. Resweber,1947)

以上のことを英語で書いたものを第2部としてご紹介します。

                                         (弁理士 木村進一)
                            「特許評論」は登録商標(第4556242号)です。

【追記】 現在、三浦和義氏が旅行先のサイパンで逮捕され、再審の合法性をめぐって弁護側とロサンゼルスの検察ともめていますが、争点は「一事不再理」の原則の適用があるか否です。この「一事不再理」が本件シンプソン事件における「Double Jeopardy」です。米国では「一事不再理」といわず「二重の危険」と言っています。根拠は、上記の連邦憲法第5修正条項と、さらに州にも適用があるとする第14修正条項です。
[PR]

by skimura21kyoto | 2008-01-22 11:29  

<< 事件から法律英語を学ぶ-O.J... “悪文”とは、“名文”とは-名... >>