日本における周知標章の保護-商標『ユベントス』事件(東京地裁)

事件の概要
 原告(日本法人)は商標”Juventus”の商標権者。商品は被服・装身具関係で本商標選択の動機は、サッカーファンであった社長が、昭和57年(1982)頃イタリア旅行した時にイタリーのプロサッカーチーム“ユベントス”の名前が気にいり、サッカーチームの名前であることを知りながらが自社の商標に選定したものです。当時日本ではまだJリーグはなく、サッカーが今ほどポピュラーでなかったためユベントスの知名度(celebrity)はなかったといえます。

【被告側の事情】イタリアのユベントス・チームから”Juventus”を商標として使用することにつき許諾を得ていたカッパ社からさらにイタリアのベイシック社に再使用許諾がなされ、その商品が日本に輸入されていました。理論的にはベイシック社の”Juventus”付商品の輸入は原告の商標権の侵害となります。そこで両者の間に訴訟がもちあがりました。

【裁判所の判断】裁判所は原告の権利行使を権利の濫用(misuse of trademark right)に当たるとの判断を示しました。すなわち、原告による商標権の権利行使は正義衡平の理念に反し、国際的な商標秩序に反するとして原告の権利行使を認めませんでした。(東京地裁平成12年3月23日判決)
 その後、本件商標登録は無効審判により登録無効になっています。理由は商標法4条1項7号が規定する公序良俗違反です。

【解説】
 1.タイトルは「周知標章」となっており「周知商標」とはなっていません。ここでのテーマである「ユベントス」はイタリーの有名なサッカーチームの名称であってそれ自体商標ではありません。「標章」は概念としては商標も含む広いもので、日本の不正競争防止法でいう「商品等表示」がこれに近く、本件の場合のように団体の名称なども含みます。
2.商標法第4条1項7号は有名標章を守るという規定ではなく、「公序良俗に反する商標は保護しない」とするものです。周知商標の保護は商標法4条1項10号が規定していますが、これは「周知な商標またはこれに類似する商標」としており、本件のようにサッカーチームの名称はこの範疇に入りません。当時の商標法は、商標を有形の商品に使うものと定義しておりました。そのため「公序、良俗違反」の規定に頼らざるを得なかったのです。
3. 他人の有名な標章を模倣するのは不正競争行為ととられる公算が大です。商標登録を取っていないからといってそれにつけこむことは許されません。商売は常に正々堂々をやりたいものです。本事件も「信用のただ乗り(free-riding)」の典型と言えるでしょう。
【注】「標章」はmark、「商標」は米語ではtrademarkと一語、英国綴りはtrade markと二語が普通。一つの文章ではどちらかに統一して使うこと。

【類似の事件】
山梨県の印鑑メーカーが、「福沢諭吉」を第16類「紙類、雑誌、書画、写真、遊戯カード、文房具類」を指定商品として平成10年10月9日に商標登録(第4195559号)を受けていましたが、慶応義塾大学が登録の無効審判を請求し、平成17年7月11日に無効の審決がくだされました。審決の理由は本件と同じ公序良俗違反でした。権利者は、福沢諭吉は既に亡くなっているからと反論したようですが、通りませんでした。なお、現在は慶応義塾大学が、商品のみならず役務についても商標「福沢諭吉」を10件の商品区分にわたって第4981751号として登録しています。

【英訳演習問題】
 外国の依頼人に上記判例を一例として日本における周知標章の保護を説明する文章を英文でまとめてください。訳例は日を改めて発表します。
                         (弁理士 木村進一)
                 「特許評論」は登録商標(第4556242号)です。
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by skimura21kyoto | 2008-01-28 18:06  

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